0004 おもひで
以前,親族に着物の訪問販売をしている人がいました。
あれはたぶん小学校の高学年くらいだったと思いますが,その人が持ってきた着物の中に,橙色の地に花車の刺繍がほどこされた名古屋帯がありました。まだ子供だった私の目にはその帯がとても美しく,ず〜っとさわったりながめたりしていました。
たしかお正月で,お年玉も少しあったので,「どうにか買えないだろうか…」と思案していましたが,それを見ていたおじいちゃんが足りない分のお金を出してくれたような覚えがあります。その帯をする着物も持っていないのに,「いつか締めてみたい」という気持ちだけで買いました。
買ってくれたおじいちゃんは,私がその帯をする年頃になる前に亡くなりましたが,とても厳しかったおじいちゃんがどうしてあの時お金を出してくれたのか,今となっては知るすべもありません。でもその帯は,あの時と同じ美しさのまま私の手元にあります。
今回の着物折り紙の矢絣には,もっと別の色も良いと思いましたが,そんな気持ちからこの帯を結んでみました。私にとっては色あせない思い出の一つです。
矢絣はなぜか小さい時から好きな柄で,いつか素敵に着こなせたらと思いながらも,実際にはなかなか手が出せない柄ですが,この機会に一緒に組ませてみました。